食べること生きること

何歳になっても若々しく!脳のみがき方

知っておきたい!脳の成長と衰え

私たちの脳はどのようにして老化するのでしょうか?
脳の成長と衰えについて知りましょう。

人脳の使い方の違いで衰えには個人差が

ところで、40歳を過ぎてもワーキングメモリーが衰えない人もいれば、比較的若いころから衰えてしまう人もいます。この差がどこで生まれるかというと、日常的に脳をしっかり使う生活を送っているかどうかということです。
たとえば企業の管理職を務めているような人は、年齢を重ねてもさまざまな判断や指示をしなければならず、つねに脳を使う生活を送っています。

反対に仕事を退職し、趣味やサークル活動もなく、毎日をぼんやり過ごしていると脳はすぐに衰えてしまいます。
脳は使っていないとすぐに衰えます。逆に脳に刺激を与えてあげると、80歳、90歳になっても脳が衰えにくいことも確認されています。
年だからとあきらめるのではなく、積極的に脳を使うことが大切なのです。

現代はサービス社会脳を使わない生活が中心

現代社会は機械化が進み、便利な器具やサービスがどんどん登場してきました。
昔とは比べものにならないぐらい生活は便利になりましたが、その一方で脳も体も日常生活の中であまり使わないようになっています。
昔なら畑仕事をするだけで運動になっていましたが、今はわざわざアスレチックジムへ通って運動しなければいけないようになりました。
同様に、昔は日常生活の中で脳が鍛えられる機会がたくさんあったのに、面倒なことは機械がやってくれ、お金を出せばいろいろなサービスが受けられる現代社会では、脳を使う機会がとても減っているのです。

便利になる事は悪いことではありませんが、現代に生きる私たちはワーキングメモリーを使う機会が減ってきていることを自覚して、意識して脳を鍛える必要があるのです。

脳のトレーニングはできないほうが効果的!

意識的に脳を鍛える方法として注目を集める「脳トレ」。最近は「脳トレ」の本や雑誌もたくさん出版され、テレビなどでも特集が組まれています。
課題に挑戦して「できた!」「できない…」と一喜一憂している人もいるのではないでしょうか。でも、課題がすぐにできたからといって、必ずしも脳のトレーニングになっているとは限らないのです。
前頭葉のワーキングメモリーは、できないことに挑戦しているときにもっともよくはたらきます。

ですから課題が簡単にできる人は、じつはワーキングメモリーがあまりはたらいていないことになります。
その作業が得意ではなく、試行錯誤しながらチャレンジしている人ほど効果は高いことになるのです。
課題ができないからといって悲観する必要はありません。むしろできないことを喜び、簡単にできる人よりずっとトレーニングになっているのだと思いましょう。
脳トレは結果より、そのプロセスが大事なのです。

慣れない作業や初めてのことに挑戦!

では、課題が簡単にできる人はどうしたらトレーニングできるのでしょうか。今までやったことのないことに挑戦したり、慣れた作業でも普段以上の負荷をかけると効果的です。
たとえば料理の場合、よく「ピーラー(皮むき器)を使わず、包丁で皮むきをしたほうが脳トレになる」といわれます。確かにいつもピーラーで皮をむいている人が包丁を使うようになればトレーニングになります。けれども、いつも皮むきに包丁を使っている人には効果的なトレーニングにならず、むしろ一度も使ったことがないピーラーを使うほうが、ワーキングメモリーをよく使うことになります。
また同じ作業であっても、いつもは10分でできることを8分で終えるように集中して行うのも効果的です。
このように時間の制約をもうけるなど、いつもとは違う何らかの負荷をかけて作業を行うとワーキングメモリーが鍛えられます。

複雑な作業であっても、その人にとって慣れ親しんだものであれば、脳はあまり活性化しません。
趣味の作業に没頭して時間を忘れるというのも、慣れ親しんだ作業に脳が沈静化して、癒しになっているからです。脳を鍛えるには慣れない作業や新しいことにチャレンジするのがいちばん。
また慣れた作業でも、いつもより少しだけやり方を工夫して挑戦してみましょう。

監修 諏訪東京理科大学教授 篠原菊紀(しのはらきくのり)さん

1960年、長野県生まれ。東京大学、同大学院教育研究科博士課程修了。専門は脳神経科学、応用健康科学。日常的な脳の活動を調べ、教育から産業まで多方面でその研究成果を活かす試みを行う。各種フォーラム・実験への参加、テレビ・ラジオ番組への出演・監修、講座などで幅広く活躍中。著書に『その気にさせる脳のつくり方』『ボケない脳をつくる』『脳が冴える40代からの生活習慣』ほか多数。